審査委員座談会レポート

2050年のスマイをめぐって——嘘っぽくないミライの描き方
審査委員座談会
ミライREBORNスマイプロジェクトで求める2050年のスマイとは——。
約30年後をどのように描けば良いのか——。
構想の手がかりとなるよう、建築・デザインを専門とする審査委員による座談を2023年2月27日に実施しました。
各審査委員の自己紹介とパネルディスカッションを動画で公開しています。
テキストは審査委員の発言を抜粋・編集したものです。当日参加できなかった齋藤精一氏へのインタビューを編集して本文に追記、映像は座談とは別に公開しています。
ぜひご高覧ください。
座談:秋吉浩気 内田友紀 重松象平 中川エリカ | コメント:樋口真嗣 赤井孝美
実践者としての眼差し
秋吉浩気:
僕は、VUILD(ヴィルド)という建築系のスタートアップを経営しています。大人も子どもも自分の地域の材料を使って自由にモノづくりを実現できる社会を目指して会社を立ち上げました。
そのためのサービスとして、デジタルデータを使って木材を加工する機械ShopBotを全国の中山間地に180台以上導入してきました。林業や山主にShopBotを販売し、地域で林業を営む人たちが自分たちの手で新しいものをつくること、子どもたちのデジタル木工などの活動を支援しています。
VUILDが設計した「まれびとの家」は、デジタルファブリケーション技術と地元の木材を使い、資材調達から加工、建設までを半径10km圏内で完結させたものです。長距離輸送による環境負荷を削減し、地域内での利益分配を実現しています。
こうした活動のモチベーションは、地方都市を豊かにしていくこと。次の世代を育てたり、文化遺産を残したり、デジタルツールや技術を使って、地方のリアルな物質や人をつなぎ合わせていきたい。そうした物語をいかに建築でつくれるかに挑戦しています。
秋吉浩気
“次の世代を育てたり、文化遺産を残したり、デジタル技術を使って人やモノをつなぎ合わせたい”
——秋吉
内田友紀:
都市デザインを志した当初、トップダウンの都市計画とボトムアップのまちづくりが繋がっていないように感じ、その頃から、自律的で創造的な都市や地域はどういうものか? という問いが自分の中にあります。留学中、イタリアやチリ、ブラジル、ベトナムなど海外のさまざまなまちで地域プロジェクトに取り組んできました。そこで、地域の人が自身のエネルギーを開放したときに、プロフェショナル・デザイナーである私たちがいなくなった後もプロジェクトが成長していく様子を目の当たりにしました。物理的なデザインのみならず、地域の人が自身のオーナーシップを発揮したときに、よりパワフルな状況が生まれる。都市デザインの考え方を広げる大きな転換点になりました。
帰国してRE: PUBLICというTHINK & DOタンクの創業に加わり、研究と実践の両方に取り組んでいます。自治体や省庁と一緒に地域や都市の戦略を考えたり、大学や研究機関と一緒にデザイン領域の研究をしたり、企業の研究開発の人と一緒にヴィジョンや組織自体を構築したりしています。
例えば鹿児島の薩摩川内市では、市と九州大学、九州電力と一緒に薩摩フューチャーコモンズという循環経済に向けた都市構想に取り組んでいます。原発立地エリアだからこそ、次世代にあるべき地域産業の発信地となるべく、研究開発のレベルから市民参加活動まで、さまざまな角度から時間をかけて取り組んでいます。
自身の活動・YETとも共通して、これまでバラバラだったセクターを紐解いて共に変化できる共同体をつくっていくこと、個人と組織を接続して社会の変化につなげていくことを考えていきたいと思っています。
ミライREBORNスマイに対しては、多様性をもとにした想像力をどのように実現できるかに注目したいです。一言で「多様性」と言ってしまうと平易に聞こえるかもしれませんが、高齢者や子ども、障がいのある人、国籍が違う人、自然物など、自分と異なる存在への想像力を馳せて、さまざまな立場がどう共に在るか、そこに物理空間とデジタル社会がどのように寄与できるかに興味があります。
内田友紀
“さまざまな立場がどのように共に在るか、そこに物理空間とデジタル社会がどのように寄与できるかに興味があります”
——内田
重松象平:
僕は大学院から日本を出て25年、現在はOMAのパートナーとしてNYを拠点として活動しています。日本人として日本を外から見た視点を加えて審査に寄与できるかなと思います。
建築家は未来を想像できるプロフェッションだと思われがちですが、日々ハードをつくる立場として現実的な側面ばかりにのまれてしまってか、昨今は特に未来へのヴィジョンづくりで社会をインスパイアする役割ではなくなってしまいました。代わりにと言っては何ですが、ここ何十年も映画やゲームの世界の方が断然自由な発想で未来を考えているのではないかと思います。今回はこの審査のプロセスを通して樋口さん、赤井さんからそういう視点を学びたいと思っています。
「未来」という観点で参考になるかどうかは分かりませんが、現在手がけているふたつのプロジェクトを紹介します。
ひとつは、マイアミビーチの「リーフライン」というアートを媒介とした珊瑚礁の再生計画です。1980年代に観光地化したときに、ビーチを拡張し、珊瑚礁が死んでしまった。また、現在は温暖化で海面上昇しビーチが浸食されている課題があります。そこで、アートをビーチ沿いの海中に埋めて海中彫刻庭園のようなものをつくり、同時に珊瑚が各彫刻の上で繁殖し、全体的にサンゴ礁が再生されるという計画です。観光政策、環境政策、アート政策など、いろいろな課題がコンバージェンスし、普通の都市計画などと違ったさまざまなスペシャリストが関わっているプロジェクトです。
もうひとつは、食に関するリサーチです。衣食住の中で衣と住はグローバル化して均質化してしまったけれど、食だけはテロワール文化のように地域の独自性を持ちながらも、同時にそれがグローバル化していく柔軟性があると思っています。それで、食を通じて見た都市と建築像をハーバード大学でリサーチしていました。現代のテクノロジーを使って、食の生産と建築や都市を統合するプロジェクトが世界中で立ち上がっています。これまでの都市は食の生産など一次産業を追い出してきましたが、それを見つめ直すことで新しい都市や建築の方向性が見えてくるのではないかと思っています。
重松象平
“都市から追い出された一次産業を見つめ直すと新たな都市や建築が見えてくるのではないか”
——重松
中川エリカ:
私は現在40歳ですが、モノとコトの両方を設計することで建築がいかに威力を発揮できるかに力を注いでいる世代だと思います。その中でも、私はどちらかというとモノづくりに偏っています。
設計には建築家ごとにいろいろなアプローチがありますが、私は大きな模型を最重要ツールとして使って身体的に建築を考えることを徹底しています。
見たこともない建築をつくるときに、それのどこが良いかを全て言葉で説明しきれなくても、模型を用いると立場を超えて「空間の良さ」を直感的に共有することできます。例えば住宅の場合、建築に影響を与えそうな範囲全てを敷地と再定義して模型をつくり、周辺環境といかに連続した体験の立体を建築としてつくり出すかにチャレンジします。
また、建築(モノ・立体)を通じて、生活のシーンも発見したいと思っています。設計の初期から点景を置き、新しい生活のシーンを模型から発掘するような作業をします。建築より小さいスケールも含めたモノの総体から、これまで見たことのない空間を生み出すことができるのではないかと思っています。
模型は、目の前の世界を理解するのに便利で、最近は言葉とは違う模型という言語をフィールドワークにも展開しています。
例えば、南米のチリの各都市を周り、野外の什器を模型という方法で採取しました。実写とメモと模型写真のセットで記録していくと、各都市の特徴が什器にも現れていることが分かってきました。都市を構成する最小単位である什器から新しい都市像や建築の組み立て方のヒントを学びたいと思っています。
市井の知恵とか、日常の延長にまだ知らない美しさを見いだすことが、今私が興味をもっていることです。まだ知らなかった美しさが、そこかしこにあるのではないか。そういうものを再解釈しながらつくりたいと思っています。
中川エリカ
“日常の延長にあるまだ知らない美しさを見いだし、再解釈したい”
——中川
歴史や現実の課題に根ざした未来の構想に期待
重松:
未来のスマイというのは、難しい課題だと思います。形骸化された未来を描いたCGが出てくることを、僕は歓迎しません。意匠的に未来ぽく見えるとか、表層的な感じも大事なのかもしれませんけれど……。
重松象平
“形骸化された未来を描いたCGは歓迎しない”
——重松
秋吉:
嘘っぽい未来像を描くことはできると思いますが、遠い未来を構想するより、信頼に値する行動をすることが重要だと思っています。
VUILDという会社を経営しているので、中長期の計画を一応出しますが、実際に予測なんてできないと思っています。何を今実践しているのかの方が尊い。社会的なインパクトを起こすために今何をやらなければならないかを考える方が重要だと思っています。
内田:
これから先の自分たちの価値観を表明してほしいと思います。趣旨文のところで、応募くださる方々が2050年にどのような社会になると良いと考えているか、そこにどのようなアクションをしていきたいかをぜひ書いて頂きたい。
内田
“2050年はどのような社会にしたいか、そのためにどのように行動するのか”
——内田
重松:
スパイク・ジョーンズ監督の映画「her」は主人公がAiの女性と恋に落ちるSF映画です。その中で街のシーンは一切CGを使わず、朝のシーンはサンパウロ、昼は東京、夜はニューヨークなどと、実際に存在する都市でのロケを時間帯やシーンによって使い分けていて、それが何故かとても近未来的に見えるんです。
樋口:
ゴダールの「アルファヴィル」でもパリ郊外の街を背景に未来都市を見せています。変にデザインをしてしまうと、デザインしようという意図だけが表に出てしまって、本来表現したいこととずれてきてします。
樋口
“未来イメージをデザインしすぎると、本来伝えたいこととずれてしまう……。”
——樋口
中川:
「未来」というときに出てくる、表層的なイメージには私も抵抗を感じています。時間の積み重ねをまったく無視してイメージだけが出現すると、とても薄っぺらいものに見えてしまうのではないでしょうか。
時間の積み重ね、つまり歴史への敬意や解釈を含んだまだ知らない未来のようなものがあるとすれば、それがどういうものかと自分自身も考えたくなります。『未来都市はムラに近似する』という本の中で、建築家・北山恒さんと対談させて頂いた際も「前近代のムラに戻るわけではなく、過去から学びつつどうやって未来のムラにつなげていけるか」という話をしています。厚みのある提案を期待しています。
中川
“過去から学びつつ、どうやってそれを未来につなげていけるのか”
——中川
内田:
30年後を考えるには、30年前を考えると想像しやすいかなと思います。1990年くらいから今までどれくらいの飛躍があったか、これから30年後にはどれくらいのジャンプ感があるのか……。暮らしの中で普遍的なところ、変化する/変化させたいところを見極め、自分たちの提案したいポイントを表現して欲しいと思います。
秋吉:
審査する側としては、信頼できる希望のようなものが見えてくると良いと思います。提案する人がどれくらい自分ごと化して、抱えている問題意識を提案として乗り越えたいと思ったか、その探求した姿勢を評価したいです。その上で今はこういう状態だから、将来はこうなっているというヴィジュアルを見せてもらった方が、すっと理解できる気がします。
主体的に何もしていないけれど、こんな風になると良いという突拍子のないものだと、説得力もないし共感できないと思っています。重松さんが危惧しているように、ただヴィジュアルだけインパクトがあるというものは期待していません。
座談会
多様な視点でこれからのWell-beingを構想し、実践につなげる
重松:
どのようなチーム構成で提案が出てくるのか、予想ができないし、興味があります。
内田:
私もチーム構成にはすごく興味があります。建築関係者だけではなく、いろんな分野の人とディスカッションして、こういう社会像があると良いのではないかということを描いて頂けると面白くなると思います。コラボレーションがますます重要な世の中になっていくと思うので、多様な人の構成で出てくる社会像を見てみたいと思います。
重松:
実際に、今われわれがつくっている建築も、多様な人が関わってできていますからね。建築関係者だけで応募してきたら入選しないとここで明言しましょうか(笑)。
中川:
ミライREBORNスマイプロジェクトの趣旨文を読み、ヘルスケアにとって今後は住宅が重要になるという視点が面白いと思っています。これまで機能分化していたものが、限界を迎えているということだと思います。
例えば、未来では住宅が病院に取って代わるものになるとしたら、それは一体どういう住宅なのかを具体的に考えてみるのも面白い。
余談ですが、若い世代が結婚して姓を変えるとき、じゃんけんでどちらの姓を名乗るか決めたという話を聞き驚きました。現在は「家」という概念も変化していて、人との結びつき方が変わっているのだとしたら、スマイにどういう関係性を求めるのかを若い世代から聞いてみたいです。結婚や家のあり方が変化していくと、共助のあり方も変わってくるのかもしれません。
座談会
内田:
ヘルスケアという視点で言うと、2年前に、小さなデザインの教室XSCHOOLで医療人類学者の方らと、「わけるから、わからない—医療とわたしのほぐし方—」というテーマに取り組んだことがあります。そこでは、「時代の変遷と共に、医療や福祉をお医者さんや福祉施設などの専門家やサービスに任せすぎて、どんどん私たち自身の力を失っていったのではないか」という問いのもとリサーチや議論を進めました。
現代社会は、さまざまな分野をいつの間にか他者やサービスに任せすぎて、一人ひとりのケーパビリティ、生きるDIY力のようなものを失っているとすると、私たちが個人や集団として生きる力をいかに取り戻せるのか……。
重松さんの言う都市での食の生産や、秋吉さんの自分たちの手で林業を変えて行くこととも関係すると思いますが、“健康”というコンセプトが時代と共に変わっていくことを複合的なチームで考えていくと、30年後のWell-beingがどのようにあって欲しいか見えてくるのではないかと思います。
また、そこにはどのような主人公がいて、暮らしているか。そのストーリーが見えると良いですね。
秋吉:
そうですね。体験でも良いですし、サービスでも良い。その方がグッとくる。
そういう意味でもチーム編成がデザイナーだけだとつまらない。
内田:
そうですね。同時に、「このサービスが地域を明るくします!」というサービス頼りの提案でなく、誰がどのように関わると、提案する地域社会像が実現するのか。自然物も含めた社会の関係性が見えると良いですね。
秋吉:
一番良いのは、賞金200万円で、提案の一部を実装することですよね。その条件付きで最終審査は選考しましょうか(笑)。
秋吉
“賞金をつかって提案の一部を実装してほしい”
——秋吉
内田:
万博をきっかけに新しいプロジェクトが立ち上がると理想的ですよね。2050年に向けて、今からできることはこういうことです、という提案は頼もしい。
中川:
今回提出物の中には映像があり、最終的に映像展示になるというのがユニークだと思っています。これが建築のコンペだと、集落ぽい模型やヴィジュアルが並んでしまいそうなのですが、映像になったときにどのような表現があり得るのか——。
例えば複数の拠点に住んでいたり、モノだけでは表現できない住まい方を、映像だからこそ表現できると良いと思います。それが、建築の専門家だけでなくコラボレーションによって提案する意味にもなり、新しい発見に繋がると思います。建築や模型と違って、映像にはスケールがない。だからこその魅力や体感を得られると楽しいですよね。
同じヴィジョンでも建築で表現できることと、映像で表現することと違うと思います。ぜひ樋口さんにお伺いしたいのですが、映像という表現だからこそ持つことのできる魅力やパワーって、どんなものなのでしょうか?
樋口:
それはあるのかなぁ……。今回皆さんと一緒にこのコンペの審査委員をやっているのは、映像の限界を感じているからです。映像よりむしろ、目の前にあるものを感じさせることが重要だと思っています。映像は、どうしても1枚の幕の外にあるものなので、中川さんがプレゼンしたように、模型に立ち返るのはすごく分かる気がします。
赤井:
建築とわれわれがつくっているコンテンツは寿命が違うと思っています。今、50年前の建物を普通に使っていますが、アニメやゲーム、映画の世界で50年前のものを好む人はそれほどいません。建築物が存在し続ける影響力の大きさは、すごいと思っています。
赤井
“建築が存在し続ける影響力の大きさはすごい。”
——赤井
樋口:
その長い時間を見越して建築はつくられるということですよね。映画の世界は公開されて数ヶ月観てもらえればOKという、刹那的な世界ですから……(笑)。「地図に残る仕事」という言葉がありますが、そういう仕事をしている皆さんと一緒に審査できるのは、たいへん嬉しいです。
重松:
中川さんの大きくてつくり込まれた模型を樋口さんが撮影するような……そんなプレゼンテーションも面白と思います。万博の展示なので、観るだけではなくて、五感を刺激して、没入感を感じてもらうことは重要だと思います。テクノロジーと展示デザインと空間が連動してそれが可能になるのではないかと思います。
(2023年2月27日 全日本不動産協会本部にて)

齋藤精一氏へのインタビュー

2025年までに活動起こし、アイデアの実装へ
コメント:齋藤精一
——ご自身の活動についてお聞かせください。
齋藤精一:
2006年にライゾマティクスを立ち上げ、ずっとウェブサイトやアプリをつくるデジタルクリエイティブの仕事をやってきました。安全安心なものづくりではなく、進化するデジタル技術をつかってどのように楽しむか、いかに新しい体験をつくるかを意識してきました。
2020年にアブストラクトエンジンに社名を変え、活動が大きく変わり、現在は建築や都市に関わる仕事をしています。
都市開発では、これから必要とされる都市像とは何かを追求しています。アウトカムをプロジェクトごとに想定し、それにむけて建物のプログラムやボリューム、床の素材までがどうあるべきかを検討します。また東京全体がどういう構造を持つべきなのかなど、単独の事業主の枠を越えて他主体と役割分担してどういう風に共創を促していけるかに興味を持っています。
また、地域創生の機会も多く、行政と一緒に地域の文化基盤をどのように経済効果につなげていくかに取り組んでいます。地域創生のひとつとして芸術祭のプロデュースもやっています。奈良県では「MIND TRAIL 奥大和 心 のなか の美術館」という芸術祭を、横須賀の猿島では「Sense Island-感覚の島-暗闇の美術島」という芸術祭をやりました。芸術祭を立ち上げる時、まちの中で共創が起こり得る良いつながりを掘り起こすことが重要なので、そのプロセスを大事にしています。
大阪・関西万博では、EXPO共創プログラム・ディレクターを今年の1月から拝命しました。2022年まではPLL(People’s Living Labo)クリエイターという立場で、ボトムアップで政策をつくり、それを実装することを推進していました。2025年の開催に向け、人やプロジェクトをどんどんとつないで共創が生まれるとよいと考えています。
それ以外にも、ファッション、広告、アートやデザインなど領域を横断しながら、ひとつのアウトプットとアウトカムをつなげようとしています。単独の企業や自治体でできないことを互いに補い合いながら、新しいものをつくっていきたい。社会の状況を見ながら必要な量だけをそこに投入していくことが必要だと思っていますので、そういった取り組みを今回の万博でもできたら良いと思います。
——どのような提案が出てくれば面白いと思いますか?
齋藤:
ミライREBORNスマイというテーマに対して、大きく2つの方向性があると思います。
ひとつは近い未来の話で、本当に必要なものを実装する提案です。1970年の大阪万博は会場の中だけがタイムスリップしたような場だったと想像しています。でも2025年の万博では、SDGsやこれからの産業構造の転換といった現実的な社会課題に対して、どのように打ち返して行くかがテーマになっているので、タイムスリップ感はさほどないのではないかと思います。
SF作家のウィリアム・ギブソンにメールインタビューをしたときに、「21世紀になって22世紀の話をしなくなった」と彼は興味深いことを言っていました。それは、現代の世の中は希望にあふれているというより、目の前の問題にどう対処するのかということに精一杯で躍起になっているからだと僕は思いました。コロナや戦争、財政破綻などさまざまな社会課題がある一方、インターネットも手伝って世の中の出来事を解像度高く把握できるようになっています。それがゆえに、近視眼的になっているのではないか……と。だからむしろ、22世紀や23世紀に人間が何をしているのかを想像することもあり得ると思う。これがもうひとつの方向性で、もしかしたらひとつくらいは、万博会場内ではるか未来を予想している場があっても良いのではないかと思います。
でも、僕はそもそも未来という言葉が好きではありません。電車に乗ってうたた寝して目が覚めたら周りの風景がまったく違っていて、空中に車が浮いていたりする「ブレードランナー」で描き出されたような無機質なものなのか……、あるいはピカピカなものなのか……。
明日の先に未来があるということをよく言うのですが、一気に飛躍したものではなく、もう少し近未来から考えられる予測的な提案があると良いと思います。
その時の提案は建物に終始せず、生活がどうなっているのか、何を食べているのか、庭という概念が存続しているとしたら何の植物が植わっているかとか、日本や世界がどうなっているのか、それらを想像する機会になれば良いと思います。そこに思いを馳せることを楽しんでやって頂けたら嬉しいです。
齋藤
“明日の先に未来はある。近未来から考えられる予測的な提案を!”
——齋藤
——1970と2025では万博の趣旨が変わっているのでしょうか。日本開催に限らず、万国博覧会そのものに変化があるのでしょうか。
齋藤:
1851年に開催された第1回ロンドン万博の当時は、富国強兵を謳ったプレゼンテーションだったのではないかと思います。世界大戦などを経て、1970年の大阪万博では、国威発揚とか経済産業振興がテーマになっていたと思います。
でも2025大阪・関西万博では新しい共創をどれだけ生み出すかが主題だと思っています。ゆえに先ほど言ったPLLが必要とされた。今回SDGsがテーマになっているのも、未来を考える前に現実を考えなければならず、現実を考えることが未来をつくることであるという志向になっていると思います。
万博を通じて、産業が時代に追いつくのか、産業が時代を引っ張るのかという関係性が見えてくるのが面白い。今の時代はその過渡期にあって、時代と産業が横並びで進んでいる感じがします。現実と産業が併走して、今できていないことをどれだけできるか、そのスピードに互いにどう追いつくかというテーマが、世界的な潮流になっているのかなと。SDGsやサステナブルへの意識が高まり、そこに投資が集まってくるようになったので、全世界的に共創しながら今の問題をどう解決するかが万博の大きな位置づけになっているかと思います。テーマパークのように描かれたピカピカの産業の未来を見たいわけではなく、みんな現実がどう変わるかを知りたいのだと思います。
A面とB面という言い方をよくしますが、良いところばっかりが見えるA面ではなく、B面にあるいろいろな課題をどう解決するか——。これまでの万博はどちらかというとA面ばかりを見せるのがミッションでしたが、これからはB面の気候変動や少子高劣化、エネルギー問題、モノの廃棄などさまざまな問題ありきでA面を考えていかなければならないと思っています。
——ミライREBORNスマイでは提出物に映像があるのが特徴です。アウトプットについての期待をお聞かせください。
齋藤:
もしも僕が提案するとしたら、たくさんのCGをつくるよりも現実を撮り、それを編集しながらどのような未来になるかをプレゼンすると思います。それをつくるにあたっては、パソコンはどのようなかたちかとか、電気はどこからエネルギー供給されているかとか、細かいところまで妄想して映像化してもらいたいです。
まずストーリーをつくって、それを説明するための情景や雰囲気を入れ込んでもらえると良いかなと思います。できるだけストーリーをつくること、情景を妄想することに時間をかけてもらって、それをしっかりつくったところで必要な映像制作をするのが良いと思います。
そして、生み出したアイデアには責任を持って欲しいです。賞金をつかってプロジェクト化して欲しいという秋吉さんの提案には、同感です。2023年秋から2025年に向けて映像を作成することになるので、できるだけ自分の考え方の解像度を高くして、自分たちで活動を起こしながらアイデアを社会実装をしていくことを少し意識してもらえるといいのではないかと思います。アクションを起こして、一生面倒を見るようなアイデアが生まれて欲しい—。そのきっかけとしてのミライREBORNスマイ プロジェクトになると良いと思います。
齋藤
“アクションを起こし、一生面倒を見るようなアイデアが生まれて欲しい。”
——齋藤